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「こみけん。@真田」レポート
こみけん。@真田で紹介した古民家の所有権移転が完了しました!
2024年10月3日に、「こみけん。@真田」で紹介した古民家のうち1軒の所有権移転が無事に終わりました。古民家を譲り受けたのは、「地域と連携した里山暮らしの体験を提供する宿」を提案した岸本拓さんです。岸本さんは2026年春のオープンに向け、来年からリフォームとサービス内容を詰める作業を進めることにしています。
古民家や空き家を活用した事業を始めたい希望者がプランを提示し、所有者が最適な案を選ぶという取り組み「こみけん。」について、これまでの経過をレポートします。
左 柳沢さん 右 岸本さん
「こみけん。」とは、古民家をみんなで見学、活用を研究するイベントです
◎空き家バンクの限界
当市では、空き家を有効活用し、都市部からの移住や市民の定住を促進することで地域活性化を図ることを目的に空き家バンク制度を実施しています。
平成27年度から本格的運用が始まり、今年10年目を迎えました。これまでに登録された空き家数は352件、そのうち約80%ほどの281件が空き家ではなくなりました。(2024年10月現在)
しかし、この10年間で市内の空き家は年々増えているはずですが、空き家バンクへの空き家登録数はそれほど増えていません。空き家バンクへの登録が増えない理由のひとつに、所有者の空き家へ
の思い入れが上げられます。先祖代々から受け継いできた家に対する想いはあるけれど、今後の維持管理を考えると手放さざるを得ないという所有者がたくさんいます。
また、空き家のある地域とのつながりから、下手に手放すことができないという状況も加わっています。
さらに、空き家のある地域住民の立場では、地域コミュニティに誰が入ってくるかわからないという不安を抱えることにもなっています。
こうした要因を取り除く手法を確立することが必要と考えていました。
◎ある所有者の想い
2023年の夏頃、真田町戸沢に養蚕農家住宅を所有する方から空き家バンクへ相談がありました。「所有している古民家を地域活性化や交流の場として利用してもらえるなら価格にこだわらない」ということでした。その覚悟と必要な協力は惜しまないという強い気持ちを受け止めて、所有者と利用希望者との直接的なマッチングを企画することとなりました。
◎受け入れる地域の想い
そもそもこの古民家所有者を空き家バンクへ繋いだのは、真田地域自治センターです。各地域自治センターは地域と一番距離の近い窓口として、さまざまな対応をしています。
空き家に対しても、空き家所有者からの相談や空き家を抱える自治会、地域住民の不安についての相談といった対応に苦慮していたそうです。
今回の企画では、地域に一番距離の近い行政窓口、自治会、地域住民の協力が不可欠と考え、協議を進めていきました。
◎専門家の知見
空き家のなかでも古民家は特殊な分野です。どういったものを古民家と呼ぶかについて、法的な定義はありませんが、一般的に、おおよそ昭和25年建築基準法制定よりも前に建築されたものを指します。
また、中古住宅市場において木造建築物は築後20年を超えると価値がほぼゼロになると言われています。では、築100年を超える古民家は価値がゼロなんでしょうか?
例えば、黒光りした大きな大黒柱や立派な建具のなかには、今では造ることができない、造ることができても莫大な費用がかかるものがあります。そういった古民家の価値を見出し、新たな活用方法を示してくれる専門家も必要です。
当市では、2024年2月にAirbnb Japan株式会社谷口氏に空き家活用アドバイザーを依頼、企画への協力をお願いしました。
さらに、Airbnb Japan株式会社のアドバイスを元に企画に、古民家の利活用や建築的知識を持つ地域プレイヤーの参画を決めました。
こうして集った専門家は以下の通りでした。
Airbnb Japan株式会社 事業開発部 部長 谷口紀泰氏
株式会社ゆたかな暮らしの仲介舎 間藤まりの氏
石井工務店株式会社 宮嶋絵美子氏
こうして、空き家所有者、自治会(戸沢)や住民、専門家、行政(当課及び真田地域自治センター地域振興課)が一緒になって古民家活用を支援する体制が整いました。
◎見学会の開催
2024年3月に2回に分けて、古民家見学会を実施。真田町戸沢は、数多くの養蚕農家住宅が残されている集落であり、企画趣旨に賛同した古民家所有者が1人増えて2軒の古民家を14組25名が見学。見学者には東京、神奈川、埼玉などから集まった方々もいました。古民家の見学後、見学者、所有者、地域住民も加わって活用プランについて、専門家のアドバイスを受けながら活発な意見交換が行われました。
No.1 坂のうえのお家 | ||
非常によく手入れされた外観 |
ピカピカに磨かれた板戸 |
床下は断熱工事済み |
2階蚕室は居室へリフォーム済み |
レトロな雰囲気の小部屋もあり |
蚕蛾がデザインされた鬼瓦 |
桑を2階蚕室へ運び上げた滑車が残る |
ユニットバスリフォーム済み |
水洗化工事済み |
土地面積812.3平方メートル、母屋の建物面積357.67平方メートル、土蔵・物置あり、電気、プロパンガス、上下水道、水洗トイレ(洋式)、駐車場あり、井戸あり、畑あり | ||
No.2 川の見えるお家 | ||
集落のメイン道路沿いで目立つ外観 |
1階はサッシ、2階は手付かずのまま |
ノスタルジックな佇まいの玄関 |
書院造りの客間 |
釘隠しがチャームポイント |
想像力を掻き立てる蚕室 |
黒光りの立派な梁 |
昭和レトロなタイル張りの風呂 |
水洗化工事済み |
土地面積604.56平方メートル、母屋の建物面積310.73平方メートル、土蔵・物置あり、電気、プロパンガス、上下水道、水洗トイレ(洋式)、駐車場あり、畑あり |
◎活用提案コンペの開催
見学会の参加者のうち、4組からNo.1の「坂のうえのお家」について「ぜひ、この物件を使ってみたい」と提案を受けることとなりました。2024年6月に、それぞれの活用プランについてプレゼンテーションしてもらう機会を設けました。
(1)長和町在住40代男性
「古民家再生とジビエ料理。産学官連携で実現する関係人口創出の取り組み」
(2)上田市在住20代大学生
「食×空き家×地域 食を通じて地域を元気にする取り組み」
(3)富士見町在住40代男性
「想い巡る。里山日(美)地域と連携した里山暮らし体験施設の開業」
(4)神奈川県在住40代女性
「スローな子育て 福祉じゃない新たな支援の取り組み」
活用提案コンペには、所有者はもちろんのこと、地域住民、市内の住民自治組織、長野県建築住宅課、長野大学教授および学生など約20名が参加し、各プランについての質疑応答が行われました。
なお、活用提案のなかったもう1軒は「信州うえだ空き家バンク」に登録しています。
◎活用提案プランの採択
コンペの結果、プランの詳細、譲渡条件について当課立合いのもと、所有者、活用提案者との直接的な交渉を重ね、岸本さんのプランを選ぶこととなりました。
この交渉経過および譲渡条件については非公開としています。
「こみけん。@真田」を通じて、所有者の方は
「多くの方に見ていただき、利活用についてのアイデアを聞かせてもらいました。自分では思いつかないような内容が多く正直ビックリしました。一個人の家の売買に留まらず、今後のことにまで関与できる形で譲渡することができて満足です。上田のさらに田舎の空き家をお持ちで悩んでいる皆さんには、先ず上田市に相談することをお勧めします。」
一方、岸本さんは
「物件を見るだけでは分からない、売主の方との直接の対話や、戸沢地区の雰囲気を感じることができて、とても良かったです。また、古民家を活かすさまざまなアイデアを膨らませることができたことや、地元の方々や行政の方とのつながりができたことも、嬉しい体験でした。」
とそれぞれ感想を述べてくれました。
◎「こみけん。」の取り組みについて
まずは、古民家所有者の意向に沿った所有権移転という第一段階まで完了しました。当課および真田地域自治センターとしては、古民家活用プランの実現に向けて、岸本さんの支援を今後とも続けていきます。
「こみけん。」は単にひとつの空き家解消に留まらず、さまざまなメディアで取り上げられたり、他地域の方から「ぜひ、うちでもこみけん。を」と要望があがったりしています。
市内すべての空き家に対して「こみけん。」のような取り組みをすることはできませんが、空き家解消のひとつの手段として、さらに検討を進めていきたいと考えています。